治りの遅いキズ、足壊疽

⑧ 治りの遅いキズ、足壊疽
(糖尿病や加齢による足のキズ)

形成外科では、治りの遅いキズの診療も行っています。

一口に「治りが遅い」と言っても、「大きなキズ」「深いキズ」「お年寄りのキズ」「他の疾患で重症の患者さんのキズ」などは、「小さなキズ」「浅いキズ」「若者のキズ」「健康な人のキズ」などと比べると、最終的には治るキズであっても、治るまでに時間がかかります。
ゆっくりでも治るキズであれば、治りがよりスムーズになる手助けとしての保存治療を行ったり、治りを早めるために植皮や皮弁といった手術を追加することもあります。

しかし中には待っても治らなかったり、むしろ悪化するキズもあり、その可能性が疑わしい場合は、原因をよく調べ、その原疾患の治療も行う必要があります。
キズが治らない原因は、非常に多彩です。
それぞれのキズの状態や経過などから、原因を絞り、診断に必要な検査を行います。

足壊疽とは

治らず悪化するキズで、日常診療において多く遭遇するものに、「足壊疽」があります。

足は常に靴下や靴で覆い隠され、また目線からも遠く、見た目として気づかれにくい疾患ですが、糖尿病や動脈硬化症などに合併する頻度が高いため、実は多くの方が罹っています。
世界全体で見ると、足壊疽のために、30秒に1本の頻度で足を切断せざるを得ない状況となっています。

糖尿病では、足先の感覚がなくなったり、眼が見えにくくなるという合併症があり、そのために、足にキズができても気づかず重症となったり、またキズを繰り返します。 

動脈硬化症では、血管が詰まって栄養を届けられなくなり(虚血)、キズが治りません。
喫煙、高血圧、脂質異常症、透析、加齢など、長年の生活習慣や慢性疾患に伴い血管全体に進行するため、診断に至っても根治治療はできません。
糖尿病によるキズとは逆に、強い疼痛を伴います。
一時的に血管を開通させる治療でしのぎますが、開通した血管はしばらくするとまた詰まるため、キズを繰り返します。
血管の状態によっては開通が不可能なこともあり、その場合、キズは足先にしかないけれども、血管が無事な膝上や膝下で足を切断しなければなりません。

このようにキズを繰り返しながら、糖尿病や動脈硬化症などが進行し、時に細菌感染を起こし、最終的に足を切断せざるを得ない状況になっていくのが、足壊疽です。
細菌感染の勢いが強ければ、体がその勢いに耐えきれず、死亡することもあります。

足切断後の義足歩行獲得率はさまざまな報告がありますが、多くても膝下切断で50%未満、膝上切断で20%未満です。
また、膝下で足を切らざるを得なかった透析患者さんでは、5年後の生存率が14%であったという報告もあり、これは大腸癌stageⅣの予後にも匹敵します。

救肢のためにできること

ありふれた疾患でありながら、根治はできず、足を失い、癌に匹敵する死亡率となってしまうこともある足壊疽ですが、進行を食い止める、遅らせるためにできることがあります。
まずは、糖尿病や動脈硬化症など、足壊疽リスクのある患者さん自身やその家族が「足壊疽」を認識し、生活習慣の改善や原疾患のコントロール、キズの早期発見と早期受診を行いましょう。

当院形成外科では、足壊疽に対し、まず外来で原疾患の検査を行います。
キズから細菌が感染し発熱や倦怠感も認める場合は、緊急入院や緊急切断となることもあります。
動脈硬化症による血管の閉塞や狭窄を認めた場合は、「医療法人社団桜友会 所沢ハートセンター」などの連携病院へ、血管治療を依頼します。

血管治療や細菌感染のコントロールがひと段落した後、保存治療または手術によるキズの治療を行います。
細菌の勢いが強く骨に達している場合(骨髄炎)、その骨は削ったり切断する必要がありますが、踵を残すことができれば、義足なしでもある程度歩行できる足が残ります。
骨髄炎が踵に達していたり、足まで血管を開通できなかった場合は、膝下や膝上で切断せざるを得ず、その後の生活環境が大きく変化します。

キズの治療には数週間から数ヶ月と長期を要しますが、大勢の患者さんが入院治療を待っているため、状態が良ければ転院や、退院し外来通院をお願いすることがあり、ご家族のご協力が必要不可欠となります。
もともと加齢や別の疾患で歩けなくなっている方では、長期入院寝たきりによる体への負担を考慮し、確実に早くキズを治し元の生活に戻ってもらうために、膝下や膝上での切断を勧めることもあります。
切断範囲によっては、身体障害者福祉法に基づき県や市に申請することで、身体障害者認定を得ることができます。

キズの治療がひと段落した後は、リハビリテーションを行いながら、形の変わった足に合うフットウェアの作成や、義足の作成を行っていきます。
いったんキズがなくなった後も、同じ部位または新しい場所にキズを作ることが多いため、注意が必要です。

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